対物語でわくわく、解説でふむふむ・・・
本書は、物語で読むマーケティング入門の書である。入門とはいえ、しっかり
と骨太なエッセンスが学べるのがうれしい。本書は、とくに法人向けのマーケ
ティングをテーマにしたもので、多くのマーケティング書籍が消費者向けであ
る中で、特異なポジションにあるものといえる。
さらに、物語仕掛けになっているため、とても面白く読めるのがいい。
著者は、IBMのマーケティングマネージャーとして活躍中であり、実践と理
論の両面から語れる強みは、物語をより面白くしている。
物語の舞台は、中堅会計ソフトの会社。主人公は、入社後10年ほどセールス
を経験し、最近商品企画部に異動したばかりの宮前久美。大手企業でマーケテ
ィングを担当し、退職後大学院でマーケティングを教える叔父の与田誠が久美
のメンターとして登場する。
朝、会社が始まる前のカフェーでうける与田からのコーチングは、久美を一人
前のマーケターに成長させていく。
事業ドメインの定義、競合比較と市場分析、顧客満足のとらえ方、顧客価値の
創造、プロダクトセリングとバリューセリングなど・・・マーケティングの基
本が、物語を読み進む中で理解できるのがいい。
3C、5つの力、バリュープロポジションなどを、単に教科書的に解説されて
もちっとも面白くないが、本書のような物語の中で体験的に説明されると、妙
に腑に落ちる。
とても読みやすく、また、ためになるマーケティング読本。超おすすめ!
久美と与田の間でかわされる会話にいくつかのマーケティングレッスンがあり
その中で僕の興味をくすぐったのを紹介しておこう。
家電量販店に押され気味な町の電気屋さんが、「フットワークのいいアフター
サービスを売りに、団塊世代の富裕層を狙って成功している」事例が登場する。
バリュ-プロポジションの解説事例だ。
バリュープロポジションとは
1)顧客が望んでいて
2)自社が提供でき
3)競合他社が提供できない価値
のことである。
また、キシリトールガムが、虫歯予防のガムとして認知されるプロセスも面白
い。
虫歯を治すこと・・というサービス中心で考えていた歯医者さんの価値を
健康な歯を維持すること、というように顧客中心に変えた
それにより、キシリトールが虫歯予防のガムとしてのポジションを獲得し、
また、歯医者さんも虫歯治療以外の残り9割を顧客にできた・・・、という
わけである。
世の中の現象をこんな風に眺めるのは楽しい。
マーケティング的目線でみる楽しさを本書は教えてくれるだろう。
★★★★★+理論と実践
・マーケティングに興味ある方
・商品開発の部署の方
・世の中を面白く感じたい方