【算学奇人伝】
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永井義夫
1949年 東京外大卒
出版社勤務、NGO広報課勤務の後、文筆業
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TBSブリタニカ 1200円
1997.4.17 初版
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江戸時代の算学者、青物問屋"万徳屋" の長男、吉井長七 を
主人公に、江戸時代の日本の算数(幾何学、論理学) を題材に
して展開する 珍しい時代物小説です.
これ、面白い! です. 電車の往復でも読めます.
長七は 年少の頃から算術が得意で、お店の番頭に教えられた
算盤が瞬く間に上達し、さらに"塵劫記(じんこうき)"と言う
当時の日本では進んだ算術書(和算書)を手にして人生を
かえてしまいます.
本来は店の跡取りとして期待されたのですが、結局は弟に
譲り、自分は好きな和算に打ち込みます.
手代が 聞いてきた サイコロ博打(丁半の勝負で、外れるたびに
賞金が倍になる..) を聞いて、長七が興味津々になる....
ということろから話は始まります.
途中、ピタゴラスの定理の和算問題が登場したり、確率論が
でてきたりして、結構ユニークなストーリ-展開をします.
そして、サイコロ博打と 宝物捜し と上記のピタゴラス
の定理がからみ、 クライマックスには侍時代のチャンバラも
登場して、なかなかの虚構をなしています.
最後のほうにでてくる、悪徳算学者(博打胴元) をサイコロの
数理理論を応用してうち負かすところは、心理作戦も交えて
なかなかスリリングです.
悪徳算学者とのサイコロ勝負は、現代風にいえば "31-game"
とでも言えるでしょうか.サイコロを転がし、でた目を交互に
加算していき、31を越えた方がマケ というgameです.
悪徳算学者との勝負の後、ちゃあんと その理論を説明して
います(相手は 岡っ引き). こんな所も 時代小説としては
ユニークなところでしょうか..
和算というとソロバンを想像しますが、実際、当初は実学とし
て発展をしたようです.時とともに実学から遊離して芸道に
変わっていったようで、結局、和算は幾何(図形)を中心に発展
し結構 当時の西欧のレベルに近いものがあったみたいです.
この時代は、和算を考え出すと 神社に "算額"という絵馬
のようなものを奉納し、後世につたえようとしたそうで
(ほんとかどうか知りませんが)、そんな時代考証も
珍しく新鮮です.
後書に、この小説が展開した場所:千住 について 時代考証を
し、江戸、明治...現代 と まるで 8倍速CD-ROMで 千住の
歴史をみせるが如くかいているのですが、このあたりなかなか
素晴らしいと思います.
この作品、開高 健 賞を受賞した作品です.
著者が後書きで書いているように、取材の段階でいろいろと
歴史の発見をしたようですが、それらが小説としてうまく
散りばめられており、読む人に普通の時代小説とはちょっと
違った味わいを与えてくれます.
学生時代 チンチロリン で遊んだ方
ピタゴラスの定理を今でも3とうりの方法で証明出来る方
東京の北千住にお住いの方
是非 おすすめです.
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おすすめ度
☆☆☆☆+ 半
(最後の 半 は 丁 でも OK、どっちに懸ける?)
真之助
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