【生命の意味論】
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多田富男
1934年 茨城権生まれ 東大医学教授を経て
現在 東京理科大教授
1971年に免疫に関与する抑制T細胞を発見.
免疫の意味論で大仏次郎賞受賞.
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新潮社 1500円
1997.2.25 発行
"新潮"95.1~5月号、8~11月号、96.3月号で初出
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以前<BCな話>の竹内久美子の事を、'天才かもしれない'と紹介
しましたが、この多田先生は、天才竹内久美子の"センセ"みたい
な感じがします.
この本は、"生物学"のあつかう"生命"と言う現象を科学的に釈いた
本ですが、DNAがどうしたとか、「自己」と「非自己」を区別する
T細胞がどうの..というような生物学的な興味深い話にとどまらず
人間の存在や文化、宗教まで敷衍して(お能の"ヌエ"の話や、エジ
プトのロゼッタストーンのヒエログリフの話まででてくる) 広範な
内容になっているところが凄いと思います.
やはり私なんかから見ると、(相対的に?)天才のようです.
面白ろかったものをトピック風に....
1)曖昧な私のなりたち
私たちは、手が2本体の横から生え、足がお尻のしたから生えている.
カエルは始め シッポが後ろに這えていてやがて消える...
こんな 普通の事が どうのようにして発生するのか..
単なる細胞分裂が、やがてイモリやヒトなどの形をなしていくのは
分裂の過程で働くオーガナイザーの働き.(これって 高校の生物の
教科書にのってるんだって..覚えてる?)
このオーガナイザーが最近 物質として取り出されたそうで、
アクチビンていう変な名前のやつです.広い範囲の定義では
"サイトカイン" (ホルモンの分子群の少々で インターヘロンとか
インターロイキンとかが含まれる.何をするものかというと
近くの細胞に働きかけて増殖させたり、運動性をましたり
結構重要な働きをするものだそうです) というそうです.
<< サイトカイン >>
これって覚えておくと ちょっといいかも...
つまり、オタマジャクシに足が生えたり、人の手足が生えたり
オチンチンが生えたり(この"生える"って表現 うちの子供がよく
使います) するのも皆 サイトカインの働き.
「サイトカインは ある一定の時期、一定の場所で合成され、
その濃度や環境因子と相互して この手、この足、この口
が形成される 」んだそうです.
「つまり、五体満足なこの体は 初めから完全に決定されていた
訳ではなく、発生の過程プログラムの中で決って行くのである.」
神様がいたづらして サイトカインの濃度をほんのちょっと変え
ただけで 手が3 本の人もできるかも.
(あったら便利?..)
2) 性とは何か...
「人間はもともと女になるように設計されていたのであり、Y染色体
のTdf遺伝子のおかげで、むりやり男という形にさせられている.」
女はxx で男はxy 染色体で..なんてのは 高校の生物(中学だっけ?)
で習いましたが、こんな過激な事はならいませんでしたよね.
どうも 人間の胎児は、受精後7週間までは、男にでも女にでもなれる
"性的両態期" があり,Y染色体がちょっとだらしないと、xy 染色体
にもかかわらず 女になっちゃうんだそうです(ちゃんとタマタマは
あるんだけど). で 8週目から、男への分化(そう、もともとは女が
基本だから "分化"するわけ) するんだそうです.
曰く「女は"実態"であり、男は"現象"である」とか.
ヒェ~、俺はもともとは 女だったんかあ..なんて驚いてしまいます.
土日は 妻と娘二人(いずれも メス!) のしもべとなっている私は
なんだか 納得したような気がしました...(笑)
又、「同性愛者(ホモ等)は、フロイト的解釈で、心理的生活環境的な
影響で生み出されたとされているが、その後、脳の研究(エイズで
死亡した人の脳を解剖比較) で脳そのものにも生物学的な差が
認められ、同性愛は 生物学的、解剖学的なものにより規定されてい
る.」だからもともとが 女である人間に 同姓愛者のような若干
ありまいな性の特徴をもってもおかしくはない...
とか.
男が現象としての実在なら、まあ同姓愛もあってもいいかも.
(ぼ、ぼくは 違いまっせ.)
3)思想としてのDNA
この話は 竹内久美子もいたく気にいっていた利己的DNAの話です.
DNA のらせん構造を解明したのは、ワトソンとクリックと言う科学
者で1953年(私の生まれる前年-そんなことはどうでもいいか?)で
これは、"量子力学" "相対性理論" とならんで21世紀の科学的発見
の中でも それまでの既製概念を覆す重大事件である.(そうです)
「創造主DNA により作り出されたクリーチャーとしての生物は、DNA
によりあらかじめ規定された行動や活動を起こす~ (拡大前成説=
DNA決定論 ).一方西洋のキリスト教世界では 魚や獣等この世の全
てを支配する権力を人間が神から保証されてきた(創世記).とこ
ろが上記のように、その人間も基本的には うじむしのそれと同じ
ルールで創造されていた.従って遺伝子研究などの生物科学的な
研究は西洋ではつねにくらいイメージがつきまとっていた...」
など、生物科学とキリスト教文化の関わりなどにもふれています.
そして、リチャードドーキンスの"利己的遺伝子-selfish gene"の
話: 「つまり自然淘汰等など進化の過程で生存を争ってきたのは
種ではなく その遺伝子そのものである. 従って 生き物は 遺伝子
の単なる使い捨ての乗物(ヴィークル) である」
が紹介されており、ここは 竹内久美子の本でも 紹介されていた
ユニークな考えかたです.
このほか、DNA の4つのヌクレオチド(A/T/C/G)の並びとヒエログ
リフの共通性、免疫系と能の話など、たんなる生物科学の領域内
だけでないクロスオーバー的な構成になっています.
"超システム"(造語)- 自分を後世する要素自身を作りだし、その
要素間の関係までつくり出しながら動的に発展していくシステム -
と言う概念で、生物の現象を解き明かし、さらに 心や 人間の
文化、宗教、言語、都市、経済などの高次元の文化現象にまで
話を進展させている所は 特筆されるべきでしょう.
竹内久美子の著書でも引用されているこの"生命の意味論" で
さあ あなたも 本物の "ミクロアドベンチャー"へどうそ...
お父さんどうしてオチンチン生えてるの?って子供にきかれた方
TOKYOディズニ-ランドのミクロアドベンチャーに行かれた方
経済や教育やその他の現象を生物学的に考えたい方
超 おすすめ、おすすめ!
ただし、結構タフな本です.
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おすすめ度
☆☆☆☆☆+☆ATGC
真之助