1997年07月16日

【どこかにいってしまったものたち】...クラフトエヴィング商会97.7.16...☆☆☆☆☆

【どこかにいってしまったものたち】
--------------------------------------------------------------------------------
クラフトエヴィング商会 吉田浩美、国谷千恵
--------------------------------------------------------------------------------
筑摩書房 2400円 97.6.25 初版1刷
--------------------------------------------------------------------------------
明治、大正、昭和の初期の頃、ひょっとしたら ユーモアのある人がこんな物をつくたのかもしれない.....そういえば おばあちゃんの家にあったかなあ... なんて錯覚を起こしそうな " どこかにいってしまったものたち" を写真と文で紹介した本です. 私たちの常識というワクを解き放ち幻想とロマンの世界へ導いてくれる逸品といえるでしょう!? クラフト エヴィング商会という架空会社の3代目が、「当商会が扱ってきた 不思議なもの」を紹介するという設定で構成された本で、戦争などいろんな理由で現存しない不思議な商品について僅かにのこった "宣伝ちらし""解説書""パッケージ" により不思議商品の栄光に思いをはせてみましょう という趣向です. (全て、あたかも昔は実在したかのように作った物ですからホントは実在もしないのですが、" うん? ほんものかな?" ってつい 感じてしまうところが 魅力です) (又 結句丹精込めてつくったんだなあ と思われる点、おとなのロマンを感じさせるウイットのある説明がCool です) 何年か前に "5年後"というとても面白いTV番組がありましたがあのノリでつくられています. 瞑想思考修復機、万物結晶機、瞬間永遠接着液、人造虹製造猿などセピア色に加工して、擦り切れた風合いも本物like、説明書も昔の字体と文体で書いてあります. ひとつふたつご紹介いたしましょう.... <<アストロ灯>> 大正11年に登場した 東洋電器株式会社のヒット作 残されているのは、本体を納めていたボール紙製の箱と "アストロ読本"なる付属の小冊子のみ. 形態は懐中電灯のような 形ですが、"光"をだすのではなく"闇" を作り出す装置. アライトバキュームマシーン.もっと光を! と進み続けて きた文明社会の中で、ふと"闇" が欲しくなった時、ポケット に忍ばせたこのアストロ灯が便利. 見たくないもの、おぞましい物を瞬時にして 闇に埋没させる 事ができます.しかし、誕生したタイミングが悪く、光のみを 追い求める時代にあって急速に人気をおとしそれこそ"闇"に 葬られるように消えていったのです. (紙製の箱がいかにも時代を感じさせる趣でできており、アストロ 読本なる物も、設計図等 オオ と思わせる本物チックな出来です) <<全記憶再生装置>> "悲しいかな人生とは記憶である" と言ったのは当商会の先代で ある.確かに 自分の人生を振り返ることはすなわち自分の記憶 をたどることである.人間 年をとれば"忘却"と言う病に侵され かなしいかな 時間にのまれるようにして 人生がどんどん消えて しまう.... そこで、この装置. 一人の人間の記憶を完全に再生するものだが "正確な全記憶の再生"という機能が、本機の使用者に多大な リスクを背負わせてしまう逆説をはらんでいることに制作者 自ら驚愕の念を隠していない.つまり、30年の記憶を再生する には30年に亘る時間を要するという恐るべき"事実" を前に 制作者自身がとまどいを禁じ得なかったようです... 説明書に"ただ一度限りの使用.その法守るべし" とあるのは 人生が一度限りである以上、その再生も一度限りであるのは 当然の理であり....云々 (装置の解説書が セピア色の紙で"再生"されています) 幻想の世界を実態的に作ったもの-幻想の芳香(アロマ)ただようものたち .....手作りの感性が伝わります.「本書を最良のかたちでお読みいただくためには、その真偽を問わない事をおすすめいたします.ただし" 現実ばなれ" などの副作用にはくれぐれもご注意下さい」 という小さい活字の注意書きがありました.. 最後の"どこかにいってしまったものの作り方"という項で、作者の吉田さんと国谷さんの魔法の"手" が写真で紹介されています. 94年と97年に作品の展覧会も開催されたようです. セピア色のロマンを感じたいかたに仕事にいきずまり、閉塞状態のかたにめずらしいモノおたくのかたに知的な遊びがおすきな紳士淑女のかたに是非 おすすめです.
--------------------------------------------------------------------------------
おすすめ度 ☆☆☆☆☆ 真之助

Posted by webook at 1997年07月16日 16:47