【生涯最高の失敗】
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|著者:田中耕一
|朝日新聞社|2003年 09月
|ISBN:4022598360|1,200円 |228P
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ノーベル賞というのは凄いパワーがある。島津製作所の一人のサラリーマ
ン技術者を一躍時代の寵児にしてしまった。
田中耕一さん、43歳でノーベル賞を受賞した。若い。
田中さんは、癒し系だとか、出世を拒否した変人だとか、ネクラだとか、
いろいろ表現されてきた。それは一瞬の映像やマスコミが作り出したキャ
ラかもしれない。いずれにしてもこれほど身近に感じたノーベル賞受賞者
はこれまでいなかった。
本書は、田中さん自身が語った「タナカコウイチ」である。
田中さんの素顔がとても親しみをもって伝わってくる。
「発言することで、日本のお役にたてることもあるとわかったのです。」
とは冒頭の言葉。社会の役にたつ技術を根っこの部分で支えている地道な
技術者に光があたればいいなという田中さんの気持ちが現れている。
ノーベル賞受賞の時のエピソード(実は、島津製作所には3人のタナカコ
ウイチさんがいたらしい)や、今回のノーベル賞の内容や経緯などが、ド
ラマチックに紹介されている。
今回のノーベル賞受賞は、会社での同僚、業績を世界に広めてくれたコッ
ター教授、英語の論文を書くように進めてくれた松尾先生、自分達の業績
を公正に評価してくれたヒーレカンプ教授ら多くの人のお陰だという。そ
んな背景を田中さんらしい謙虚なタッチで紹介している。
受賞のテーマとなった「ソフトレーザー脱離イオン化法」についても、か
なりわかり易く解説されている。
田中さんの受賞が多くの日本人を元気づけた理由は、「地道でふつうのサ
ラリーマンでもノーベル賞もらえるんだぁ」という身近な喜びにあったの
ではないだろうか。
これからも技術者として生きていくという田中さん、日本の多くの技術者
や縁の下の力持ちににエールを送る本である。
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★★★★☆+サラリーマン技術者
・縁の下で技術を支えている方
・ノーベル賞がほしい方
・田中コウイチさんに好感をもった方