【武家用心集】
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|著者:乙川優三郎
|集英社|2003年 08月
|ISBN:4087746631|1,500円|283P
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乙川さんの作品はどれを読んでも心に染みわたる感動がある。読んだあと
は心を洗われたような気持ちや爽やかな余韻が残る。この作品もそうだ。
どこか不条理な人生の岐路にたち、愚直だが人間性を失わずに生きる人た
ちを見事な筆力で描いている。
藩内の権力争い、親の介護問題、自立した女性の生き様など、武家という
枠組みの中で生きる人たちの生き様を静謐なタッチで描く。どの作品も、
つましい生活の中にも武士としてあるいは武家の女性として誇りをもって
生きようとする様が心を揺さぶる。
現代の僕達にも通じるようなところがあるから、読んでいると自分がそこ
に居合わせるような感情移入を起こさせてくれる。
藩内権力抗争の中、危うく貶められそうになった閑職の武士が正義を守り
きる「倉田半右衛門」、出世にからんで友を陥れたことを詫びる太左衛門
が、もっとたおやかなものに気づく「九月の瓜」、親の介護にまつわる人
間の弱さと誠実を描いた「しずれの音」など、8編。
いずれも短編とは思えない物語の展開があり、心の葛藤がジリジリと迫っ
てくる臨場感がある。
親の介護をふたつの家で押し付けあうような状況になる中、大切なものを
つなぎとめる「しずれの音」は、思わず涙をはらりとさせてしまった。
いつも思うのだが、なんでこんな物語が書けるのだろう・・・、不思議で
仕方がない。時代小説は、乙川さん!。一度は読んでみたい。
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★★★★★+去りがたい時
・時代劇なんてと思っている方
・乙川優三郎にひたりたい方
・心の洗濯をしてみたい方