時を越えて・・・
ITのことを語るとき、誰もがイメージすることは、ドッグイヤー、マウスイヤーと呼ばれる変化の早さである。今、なにかが隆盛を誇っているといっても、来年には消え去っているかもしれない・・・そんな変化の早さに誰もが目を丸くしていた。
したがって、ITを語る本は出たときが旬で、時がたてば古臭くなる・・・そんな固定観念が僕にはあった。この本を読んで、それは間違いだったと悟った。
本書の発行日をみるとたぶん驚く。2000年9月の発行だ。
アメリカのシリコンバレーが黄金に輝き、渋谷系のビットバレーがすごくまぶしかったころ、そしてi-Modeがとてつもなくすごいビジネスモデルとして期待されたころ、この本は書かれた。
そして6年経った。今でもなお、本書の内容に大いに共感できるのはナゼか。
それは、この本が、IT技術やビジネスモデルの表層的なトレンドではなく、IT革命の深層と本質をついた普遍的なことが語られているからではないだろうか。通産省政策局新規産業課長の石黒さんとソフィアバンク代表の田坂さんが対談した内容がまとめられている。
2000年から今日まで、様々なIT世界の変化を、私達はすでに見てきた。
いろんなビジネスやサービスが登場し、どんどん便利になってきた。それをみてきた私達がわざわざ2000年まで戻ってIT革命の話を聞く必要はない・・・と思うのだが、本書には時代を超えた何かがある。
「情報通信の革命ではなく情報主権の革命が始まった」ことや、「日米の経営が、弁証法的相互浸透をしながら進化を遂げてきた」ことや、「変革というものが“起こす”ものから“起きる”ものへパラダイム変換をしている」ことや「イノベーションには“場”や“コミュニティ”が必要なこと」や、「真のアントレプレナーは志が大切なこと」など、深い本質が、語られているのだ。
6年後の今にいる私たちは、タイムトンネルを行ったり来たりするような驚きがある。そして、日本企業がめざすべき方法の深い洞察がある。
ブランドのこと、ナレッジのこと、人材育成のこと、異業種交流のことなどさまざまな面での考察が、とても心に残る。
IT革命の本質をふたつにまとめた個所がある。
1)草の根の人々、勤労者や消費者が情報主権を握り、企業や社会を
動かしていく流れを生み出した。
2)自己組織化的な動きを起こしたこと
つまり、なにかに共鳴がおきると、大きな変化が生じる・・・そんな世界が自然に、そして比較的たやすく生まれるようになったということではないだろうか・・。
変革は、どこの企業でも叫ばれている大切なことだ。そしてそのあり様は、誰か立派なリーダーが「起こす」ものではなく、自発的に「起こる」もにになりつつあるという。つまり、「変革」というよりも「変容」に近いものだ。
誰しも、変えられるのはイヤなことだ。しかし、自ら変わるのはそれほどでもない。そこに必要なのは、もしかしたら「ヒエラルキー的リーダー」ではなく「触媒型のリーダー」なのかもしれない・・・なんて思った。
ダイエー再建中の林文子さんは、そんな方ではないか・・・とも思ったりする。
「変容」したい企業は、けっこうあるような気がする。
★★★★★+変革→変容
・ITの本質をとらえたい方
・企業革命に燃えている方
・世の中を変えたいと思っている方