笑いながらも笑えない笑い飛ばしたい話などなど
「青葉繁れる」「ひょっこりひょうたん島」など、井上ひさしさんの作品は、ユーモアの中に微妙な苦味とエスプリを含んだ楽しい本や戯曲が多い。学生時代に読んだ数少ない作品に井上ひさしさんの本があった。
本書は、ひさびさの井上節。2001-2005年、小説現代に連載されたエッセイをまとめたものだ。奇想天外な発想から時代を鋭く風刺したものまで様々ある。
お気に入りを少々・・・
○問題の出し方 アメリカの大学ででた問題が紹介されている。
「ここにあなたの一生を書き綴った一冊の伝記があって、その総ページ
は300頁である。さて、その270ページ目にはどんなことが書い
てあるだろうか? その270頁を書きなさい」
というもの。大学側は、受験者にこれまでの総括を未来への展望を探ら
せるわけで、たいへん奥深い・・・と井上氏。
さらにフランスのもっとすごい大学入試も紹介されている・・・。
○経営方針 ふとしたきっかけで、社長の役をひきうけることになった著者
は、経営書と格闘。その後、友達の一人が社長になるというので、お祝
に経営指針になる色紙をしたためることに。なにがよかろうかというい
くつかの案が、紹介されている。どれも、とても正鵠を得た素晴らしい
ものばかり。井上ひさし社長が、そこにいた。
<実現可能で明確なビジョンを設定するのが大事だ>
<そのビジョンを社員に説明して、その上で全社員がそのビジョンを
共有するようにならなけれなならない>
ことや、玉子屋(弁当屋さん)の失敗するコツ12条、名南製作所の
~しない3原則、などが紹介されている。いずれも深い。
球団買取事件(もしも100億円あったら)、プロ野球のスト事件(7つの大罪)など、時事問題を斬る視点もするどい。
ひょうっこりひょうたん島にはじまって、今日また、井上ひさしさんが好きになった。
中3のときやった万引きのエピソードは、泣ける。井上少年が英語辞書を万引きするのを目撃した本屋のおばさんの、厳しくも心優しい対応が、実に心をうつ。ここに書くと泣けそうだから・・・P124を開いてもらおう。本屋で、そこを盗み見てもとがめられはしまい。そこを読んでうるうるになったお客さんを本屋のおばちゃんはきっとそっとしておいてくれるはずだ。
井上ひさしさんの小説には、こころのヒダをなでる不思議なストーリーがあるが、生き方を分ける分岐点になるこうした原体験がベースになっているのだろう。
人に話せない恥ずかしいことも、自分を成長させてくれた貴重な経験・・・なのかもしれないね。
すべてのことに感謝。である。
★★★★★+人生の分かれ道
・誇り高き生きかたをしたい方
・井上ひさし氏に興味ある方
・エスプリこだわりのある方