仲間の暖かい心で生まれた本
僕は、実はあまりエッセイが好きではない。よほど面白ろおかしく書かないと、読んでもらえないのがエッセイだ。書いた人の自己満足にはなるが、読み手には案外どうでもいいことが多いから・・。
本書もエッセイである。ところが、とてもハマった。
心にほんわかとしたあったかいものが溢れ、ちょっとクスリと笑える。そしてもしかしたら自分もそんな場面に遭遇しているかも・・と思えるところがいい。
冒頭の「ヒロシの涙」は、不思議に心にしみるものがあった。著者が幼いころ、まだ世の中が貧しかったころの話。ヒロシという少年がピカピカのゴムぞうりを自慢げに履いてきた。ところが、ヒロシは肥えダメに落ちる。そして、片方のゾウリが肥溜めの中に消えた。這い上がったヒロシは、肥溜めにまた飛び込み必死で探すが、みつからない。ヒロシは泣く。そしてそれを見ていた僕(著者)たちも泣く・・みたいな話。なんだかジンとくる。
入れ歯の話も笑える。しかも、心がほっこりする。
地下鉄東西線での話。終電近くの電車で、酔っぱらった初老の老人がねっころがっている。そのそばには入れ歯が落ちている。その人があわてて降りる時、自分の入れ歯がないと困るだろう。ということで、その人のズボンに入れ歯をつっこむ。著者はさらに思いを馳せる。その人がポケットに入れ歯が入っているのに気がつき、親切な人がいるものだと思うだろう。そしてお礼をしたいと思うだろう。そこで連絡がとれるように名刺もつっこんでおく。そばにいた友人も「じゃぁ。俺も」と自分の名刺も挟み込む。・・・・このときの妄想がとても面白い。結局、入れ歯の主からのお礼の電話は翌日も、翌々日もなかった・・・。
文章がとてもすっきりしていて読みやすい。定年を迎え、エッセイでも書いてみるかなんてかたは、ぜひ、参考にしたい。簡潔でツボを抑えた表現は、国語の教科書で取り上げてもらってもいいくらい。
登場するエピソードに爽やかで暖かな眼差しを感じるのは、僕だけじゃなさそうだ。とってもおすすめ! 心なごむエッセイだ。
本書は、多くの仲間の方の応援でできた。自費出版というより自社出版、応援出版といった趣の本である。こういうスタイルもいいねー。
日本アイビーエムのユーザー向け月刊誌に連載された内容が好評で、いつしか全国の読者から「本にしたら?」と背中をおされる。
やがて、会社のまわりで話が盛り上がり、多くの仲間の協力でできたという素敵な本だ。発行所のアルス株式会社(児玉民行社長)というのは、出版社ではない、れっきとしたITの企業である。にもかかわらず、記念出版事業として会社をあげての応援となる。この経緯も素敵だ。
この本を紹介してくださったのはKさん。ありがとうございました。
★★★★☆+エッセイ
・自分の本を出したいと考えてる方
・エッセイに興味ある方
・自分の本を書いてみたい方