だまし絵?隠し絵?
|ISBN:447847088X|1,500円|225P
矢吹源蔵が経営するアパレル企業「ハンナ」。そこに勤める娘の由紀は、父の急逝で新社長に選任される。しかし、デザイナーの仕事にあけくれていた由紀は、会社経営のことなど素人同然。困った。
追い討ちをかけるようにメインバンクの文京銀行から融資の打ち切り通告を受ける。源蔵の業容拡大がアダになり運転資金がショートするような自体にもなっていた。会社の役員もみな素っ気なく、頼りにならない。ピンチ。
そこで、同じマンションに住む安雲という会計コンサルタントに相談することになる。
安雲からのレッスンは、非常にわかりやすく、それが物語の中で展開するため非常にすんなり頭に入る。
しかもそのレッスンは、会計の基本もさることながら本質的な部分を、どうやって分り易く伝えるかに力点がおかれている。そこがまたいい。
たとえば:
真実を表現した決算書は、この世に存在しない。会社の主観が必ず
織り込まれている。その主観によって利益は変動する。
会計は、キャッシュフローと利益概念を用いて行動計画の実行可能性を
検証するツールなのだ。
会計数値で異常値をみつけたらそこを突破口にするのだ。現場に行き、
関係者の話を聞き、とことん原因を突き止める。
などなど、鋭いツボが目にとまる。
粉飾決算の見破り方、ブランド価値の考え方、製造原価を下げる方法など、ビジネスの要諦を押さえながら、物語は進む。
本書のタイトル、餃子屋と高級フレンチの例え話は、限界利益率と固定費の違いを説明するところで登場する。
結局、由紀は安雲のアドバイスをヒントに、会計と会社経営のポイントを押さえ、最後には、どたんばで逆粉飾を見抜くほどに成長する。
ドラマチックな内容がテンポよく進み、物語としても面白い。それでいて会計の勉強にもなるという二つぶ美味しさのある本である。
本書には、PLや会計の概念のほか、経営の要諦もちりばめられているのがうれしい。
例えば、「ブランド価値は、見えない現金製造機だ。」という表現などだ。
最後のレクチャーでは、由紀と安雲のコーチングセッションがある。由紀の夢は「働く女性を励ますことができる会社」にすることだ。そしてそのためには・・・と問われて語る由紀の言葉を一枚にまとめたもの・・・それは、バランススコアカードの戦略マップだった。
いろんな要素がちりばめられて、読み応えのある本だった。
仕事を通じて知りえた知識や知恵、失敗や成功など自分の体験を、何かの物語にする・・・これってすごく楽しいことだ。
いつか、僕もビジネス物語を書いてみたい。
★★★★★+会計物語
・物語で会計を理解したい方
・物語が好きな方
・会社を立て直したい方