この本は、原田宗徳というキーワードから出会った作品。
原田さんのユニークな発想や文章は以前からお気に入りで、その翻訳作品とはどんなものだろうか・・?と、好奇心から購入した。
この本は、1864年、英国の詩人テニスンが産み落とした物語である。
ある小さな港に澄んでいた3人の幼ななじみ。
港きっての器量よしの乙女、アニー・リー。粉屋の一人息子、フィリップ・レイ。
船乗りの父を失った孤児、イノック・アーデン。
この3人をめぐる数奇な運命の物語である。
二人の男の子は、アニー・リーに思いを寄せる。
やがて大人になり、アニーと結ばれたのは、イノック・アーデン。
しかし、二人には悲しい運命が待ち受けていた。
イノック・アーデンが漁にでたとき難破して帰らぬ人になってしまうのだ。
落胆にくれるアニーを思いやり、遠慮がちに支援していたフィリップは、やがて幼い頃からの思いをとげ、アニーと結婚し、家族を守る新しいお父さんになる。ところが、無人島に漂着していたイノック・アーデンは生きて帰ってくる。
わが身のエゴと人を愛する気持ちとの間でゆれる人間模様が、美しく、悲しく、抒情詩のような物語の中で展開する。
読み終えると、ふと深い嘆息の中で、なにか言葉にできない不思議な感情に浸ることができる。それが何か・・・今、味わっているところ・・・。
乙川優三郎の小説を好きな方も多いかと。僕もいくつかの作品にふれて、心をゆさぶられた口である。
この本も、どこか乙川優三郎っぽい雰囲気がある。読んだ後に残る独特の雰囲気がいい。
残心。きょうは、田坂さんにそんな言葉を伺った。誰かと別れるとき、ほんのわずかな刹那、1秒でいい、その人のために使ってみる。そこに残る心。ざんしん。
物語を読んだあとに、ちょっとした「雰囲気」を残す作品を作ってみたいね。小説でなくてもいい。普段のなにげない所作も、仕事の中の素敵な作品・・・気品や暖かい心や爽やかさ・・・そういうものが残る作品を、日々の中で作ってみたい。
★★★★★+精神性の発露
・爽やかな香りを残したい方
・鮮やかな印象を残したい方
・ふっと安らぐ言葉をつむぎたい方