宇宙人の視点から描かれたOTONAの絵本
こうたろうは、生まれつきで耳が聞こえないハンディを背負っている。幼いころにひいた風邪が原因で、中耳炎をこじらせ耳の機能を奪われてしまったのだ。それが物心がついたかつかないかの頃だったため、こうたろうには、親の声や音楽の記憶がわずかながらに残っている。これは、考えようによってはむごいことかもしれないが・・・
耳の不自由なこうたろう。ときどき、へんなことを口走って、学校の友だちに笑われたりするが、いっこうに気にする風はない。
くちさがない人は、「あのこ耳がきこえないのよ、かわいそうにねぇ」などとヒソヒソささやいたりする。
こうたろうが、あるとき「ぼくはうちゅうじんだ!」と叫んだことがあった。何の拍子かわからないが、以来、みんなは、こうたろうのことを宇宙人というあだなで呼ぶようになった。
それから歳月が流れ、幸太郎は、35歳になっている。
今は、あるお菓子屋さんでパティシェという職にあり、もちまえの粘り強さとなんでも試してみるという好奇心から、斬新なお菓子を生み出している。テレビジャンプという番組で王座に輝いたこともあるから、すごい。
彼は、今、パティシェのほかに、実は宇宙人学校というのを開いている。ハンディのある人、傷ついた人、失敗から立ち直れない人に、もういちど元気を取り戻し、ガンバル人になってほしいと思うからだ。
学校の入学式で、彼はいつもこう話す・・・。
(ちょっと聞きづらいが心の言葉は、こころによく通る)
僕は耳が聞こえません。もし僕が冗談をいって皆さんが笑ってもその笑い声 が聞こえません。でも・・・僕にはわかるんです。皆さんの笑い声が、香り のように味のように音楽のように、僕のこころに飛んでくるのが。 たまたま、今、僕は、TVにでたりして有名になってますが、パティシェに なる前は、ずたずたの人生でした。不良になりかけたこともあります。
でも、僕はぎりぎりで救われました。
先生に言われたあるひとことで・・・
いいかこうたろう。お前はほんとうに宇宙人だ。
でもな、ホンモノの宇宙人は、この★に何しにきたとおもう?
あのな、愉しいことだけをやりにきたんだ。
いいか、どんなつらいことや悲しいことがあっても
これだけは忘れるな。
愉しいことだけをやりにきたんだ。
いいか、宇宙人!
当時すでに耳がきこえませんでしたが、先生が一生懸命はなす口ぶりと
紙にかいてくれた言葉で、ぼくの心は、それをすべて受け取っていました。
いま、ここにいるみなさんも、私も宇宙人です。
この★に、愉しいことだけをやりにきた、ホンモノの宇宙人です。
これから半年、そのことをじっくりやりましょうね。
この本は、そんな幸太郎(こうたろう)の半生記である。私たちもまた、宇宙人だったことを思い起こさせてくれる素敵な大人の絵本である。
この本で、幸太郎の生い立ちからパティシェになる過程がいきいきと描写されている。社会にでたら、かわくわくできることを仕事にしたい・・と思うようになるが、どうしたらいいかがわからない。
あるとき、学校でつくったお菓子をたべたおばさん(宮城まりこさん)が、「うれしいわ、これ」といってくれたのがとても印象に残った。美味しいでも、ありがとうでもなく、うれしいわ・・というその言葉が、妙に心にのこった。
それからだ。こうたろうが、だれかによろこんでもらえること、ウレシイといってもらえることをやりたいと思い始めたのは。
うれしいわ(な)・・・と言われることならなんでもやろう。
誰かの笑顔、誰かのウレシイ、・・・それを求めていくことが、じつは自分もとってもワクワクすることなんだと気がつく。そして、それがきっと幸せにつながることではないか・・・そう思ったという幸太郎。
ぼくらも、そういう仕事や生き方をしてみたいねぇ。
★★★★★+わくわくの力
・幸せのお裾分けをしたい方
・誰かの役にたちたい方
・ワクワクの味をしめたしまった方